平田 由美(ひらた ゆみ)        e-mail: hirata@let.osaka-u.ac.jp

(1)自己紹介

   ↑老眼鏡は、しょっちゅう
   「鼻メガネ」になっている。



専門:研究対象は19世紀から20世紀の日本文学のテクストで、一般に「近代日本文学」と呼ばれている領域。と聞けば、「それって明治以降の小説や詩なんかを研究することでしょ」と言われるかもしれませんが、コトはそう簡単ではありません。「近代」はいつ始まったのか、それはどんな「時代」なのか、「日本」や「日本文学」ということばで私たちは何を指示しているのか(沖縄県は1879年まで「琉球王国」というレッキとした「国」でしたし、台湾が1945年までの50年間も、「大日本帝国」の一部にされちゃってたことは知ってますね。荻生徂徠の漢詩は「日本語」に見えないんだけど、これも「日本文学」なの?)、「文学」と「非・文学」の境界線はどこに引かれるのか、などなど、ちょっと踏み込んで考えてみると、むつかしい問題が山積みです。そうした問題群を、テクストとコンテクスト、つまり文学テクストとそれをとり巻いている歴史-文化的文脈との関係から考えています。
(2)推薦図書
《1》斎藤美奈子『紅一点論』(ちくま文庫、780円)
 生物学的には、ヒトは半数が女で半数が男。でも、『ウルトラマン』の科学特捜隊の女性隊員はフジアキコひとりだし、『科学忍者隊ガッチャマン』の白鳥ジュンも紅一点。  “世界は「たくさんの男性と少しの女性」でできている”というフェミニスト的視点から、アニメや特撮、子ども向け伝記に登場するヒロインたちをぶっちぎる痛快本。「ナイチンゲールはナウシカである」、「キュリー夫人はセーラームーンである」、「ヘレンケラーはもののけ姫である」――仰天するような命題も、読めば納得、目からウロコ。

《2》前田愛『樋口一葉の世界』(平凡社ライブラリー、1165円)
 大学生になったんだから、セーラームーンはないでしょ、も少し学問的な香りをというアナタへのおススメ本。一見、作家・作品論という正統的(ということはあまり面白そうでもない)文学研究書のタイトルを持ちながら、ここに導入されているのは、記号論、構造主義、精神分析、都市論(どうして「都市」が問題なのかというと、多くの文明圏において「近代化」=「都市化」だったからです)、文化人類学など、80年代の「言語論的転回」(このコトバの意味がわかんない人には次の《3》がお役立ちモノ)以降の批評理論のキラ星。文学理論が実践として魔法のように駆使される場に立ち会える一冊。

《3》土田知則ほか『現代文学理論』(新曜社ワードマップ・シリーズ、2400円)
 実践の前にまずは道具としての理論をしっかり身につけたい、でも、できればあんまりむつかしくないヤツ、という人にはこの本から入ってもらおう。このテの概説書は数々あって、どれも似たかよったか、メダカのがっこなんだけど、これは批評理論の解説にあたって、理解の前提となる概念やキーワードを脚注やコラムとして説明してくれる親切さが特徴。巻末のブック・ガイドには簡にして要の解説もついていて、”farther reading” を望む人にとって便利な地図になるでしょう。

《4》スティーブン・ジェイ・グールド『ダーウィン以来』(ハヤカワ文庫、800円)
 古生物学や科学史が専門で、研究者としてもサイエンス・ライターとしても超一流の折り紙つきの著者(昨年惜しくも逝去)の第一エッセイ。『ダ・ヴィンチの二枚貝』(早川書房、上下で4400円。文庫化を待て)は天才レオナルドでさえ、ルネサンスという時代の制約下、奇妙キテレツな地球内部の構造図を描いていたことが明かにされて、自然科学のような「客観的学問」といえど、時代や社会と無関係には存在しえないということを思い知らされます。グールドの数々の著作は、近頃台頭いちじるしい社会進化論や遺伝子研究のエセ科学書に惑わされないための免疫をつけてくれます。