2024 1/16 淡江大学冨田哲副教授講演会を開催しました

 2024年1月16日、淡江大学日本語学科副教授の冨田哲先生を講師にお迎えし、講演会「一日本語母語話者からみた台湾言語社会」を行いました。本講演の数日前に台湾で行われた「第16任總統副總統及第11屆立法委員選舉」の現地状況や話題になった出来事について簡単に紹介した後、昨今の台湾で起きている言語にまつわる現象や問題に言及しました。

 

 冨田先生は、はじめに、昨今の台湾でみられる言語現象や問題について、台湾の言語人口(あるいはエスニシティ)をどのように理解すればいいのかという点について、それぞれの言語人口に関する資料はあるものの、どのような定義で〇〇語や〇〇人と判断するのかは非常に曖昧であると述べました。

 次に華語教学に対する認知の高まりについて述べました。約20年前は、台湾で留学生向けの中国語教育課程はほとんど用意されていませんでした。しかし、中国語を学ぶ外国人が増え、台湾人の間では台湾華語という名称を使う場面も出てきました。一方で、外国人の「つたない」華語に関して、台湾人は幾分慣れてきたが、寛容度が必ずしも向上した訳ではない状況で、冨田先生はどの言語においても母語話者は、外国人やその国にルーツがある人の話す「つたない」言語も受け入れていく責任があると感じていると述べました。
 さらに、近年台湾の街中で見聞きする機会が増えている韓国語にも言及しました。MRTではこれまで主要駅で日本語のアナウンスが導入されていましたが、昨年から韓国語のアナウンスも開始されました。しかし外国語アナウンスの際の、台湾の地名の外国語表記(その言語での読み方に合わせるか、台湾華語の発音に合わせるか)について、専門家の中でも意見が分かれる難しい問題があることを指摘しました。
 最後に、台湾語の表記法の普及について取り上げました。台湾語の表記法自体は昔からあるものの、多くの台湾人は使用しておらず、また、漢字という大多数の人にとっての共有の書記言語があるところに、「あらたな」書記言語を持ち込むことは非常に困難であるとも述べました。冨田先生は一橋大学の吉田真悟氏の言葉を借り、「台湾語は台湾意識の象徴であり続けているが、それを推進することには限界や弊害がある。そのため台湾語の復興や文字化のための闘いは、他者の排除ではなく、色々なバックグラウンドや考え方があることを前提に、理解を広げていくことにある。」と締めくくりました。

 

 質疑応答では、熊本にTSMCの工場ができることを受けて、熊本県の企業が台湾人ひいては台湾滞在経験のある日本人学生のインターンを積極的に募集している件や、台湾人が「つたない」華語に本当に寛容ではないのか、という点について議論しました。


日時:2024年1月16日 16:50-18:20
講演者:冨田哲先生
場所:大阪大学箕面キャンパス
講演タイトル:「一日本語母語話者からみた台湾言語社会」
参加者:林初梅教授ゼミ受講生17名

2024年01月18日