大阪大学台湾研究講座の今年度実施した活動について、情報を更新します。

活動報告

2024 12/16 公開シンポジウム「台湾先住民の権利と狩猟文化の継承」を開催しました

 2024年12月16日、大阪大学外国語学部中国語専攻深尾葉子教授の企画のもと、大阪大学台湾研究講座主催公開シンポジウム「台湾先住民の権利と狩猟文化の継承」を実施しました。深尾教授の指導学生や、一般羅参加者を含め65人ほどが参加しました。

 本シンポジウムでは全3部のセッション(各90分)にて台湾及び日本の狩猟やジビエを巡る現状、問題点についてディスカッションを行った後、日本の鹿肉等を使ったジビエ料理試食会を実施し、参加者にジビエについてより深く知ってもらえる機会を設けました。

 

 

第一セッション

 第一セッションでは、まず深尾教授が趣旨説明及び2023、2024年の台湾出張報告を行いました。深尾教授は、以前より関わりのあった兵庫県丹波市での獣害や里山の維持の課題について、より多くの人に知ってもらいたいと思っていた中、台湾出張で張仁傑氏と出会い、台湾の原住民の狩猟文化も多くの困難や問題に直面していることを知り、今回のシンポジウムの企画に至ったことを説明しました。また、台湾の原住民の狩猟文化は宗教や信仰や在地の知恵に根差したものであるが、日本の狩猟はかつての文化的意義が失われ、現在は野生動物の数の管理や駆除、それに伴う補助金の支給等、事務的なものになってしまっており、本シンポジウムを通して文化に組み込まれた狩猟をもう一度考え直し、相互理解の場としたいと強調しました。

 次に、東京大学大学院博士後期課程の周頡氏が「現代社会における狩猟実践と法との衝突と調和可能性:台湾原住民の経験から」と題し、報告を行いました。周氏は、まず、狩猟活動の減少と法的規制についての関係を紹介し、次に原住民の狩猟が現代社会において持つ意味について言及しました。最後にTalum Suqluman狩猟事案を取り上げ、結論として、原住民学者を含む原住民の在来知を理解できる人々を多く招き入れ、彼ら/彼女らが原住民の視点から自らの声を発信することで、裁判官が原住民文化への深い理解を得ることができると述べました。


 深尾教授 趣旨説明・台湾出張報告

 

 周頡氏 報告

第二セッション
 第二セッションでは、新北市原住民族狩猟協会理事長の張仁傑氏が「タイヤル族の狩猟文化とその継承」と題し、報告を行いました。張氏は、本シンポジウムの前に訪問した兵庫県丹波市での猟師との交流について取り上げ、日本と台湾の狩猟の現状を比較しつつ日本の狩猟の課題について言及しました。次に、張氏自身の猟師としての経歴や経験について言及し、法規制や協会設立などとの関連から狩猟をめぐる状況の変化について述べました。そして実際に獲った獲物の写真や映像を共有し、当時の状況や各動物の特徴を詳しく説明しました。臨場感のある写真や映像に、来場者から時折感嘆や驚きの声が上がりました。また、近年日本で害獣の被害が増えている点についても取り上げ、植生を原生林に近い形に戻していくことで解決する可能性があることを述べました。最後に張氏は、他の報告者及び来場者と意見を交わし、台湾と日本の地方活性化のヒントを得たいと語りました。

張仁傑氏 報告(通訳:中井健太氏)

第三セッション
 第三セッションでは、シェフズキッチンカナールの中西次郎氏が「日本のジビエ利用の現状と課題」と題し、報告を行いました。中西氏は、表題に内容の解説に加え、今回のジビエ試食会のメニューの調理についても紹介しました。
 次のトークセッションでは、来場者から多くの質問が寄せられ、張氏を中心に、周氏、深尾教授が回答及び質問に関する討論を行いました。
 本学の学生からは、日本で問題になっている外来種問題にどのように対応しているか、原住民の立法議員の役割についてなどの質問がありました。来場者からは、原住民の民族数についての質問や、農業に従事した経験のある人から害獣駆除の方法についての共有や、それを受けて張氏らからアドバイスがありました。
 

 トークセッション

 セッション後のジビエ試食会には約40名が参加しました。提供された料理には、鴨肉、イノシシ肉、鹿肉等が使用され、フレンチだけでなく和食風のものもあり、ジビエ料理の幅の広さを実感できました。学生からは、鹿肉が思ったより柔らかくて食べやすい等の声がありました。

 試食会の様子

2024年12月25日

2024 12/10 国立台湾大学台湾文学研究所の学生との共同授業

 2024年12月3日、10日(両日とも15:10-16:40)の2回にわたり、オンラインにて国立台湾大学台湾文化研究所の学生と共同授業を行いました。

 第1回の12月3日には、大阪大学の学生10名が2班に分かれ、日本の国語教育に関する発表を行いました。

 第1グループは、日本の小学校国語における物語教育に着目した発表でした。文部科学省の三大教育支柱や学習指導要領等の方針を参照しつつ、物語『ごんぎつね』の現場の教育事例を踏まえ、結論として教師が特に文章中の登場人物の心情の変化を生徒に想像させることを重視しており、児童も比較的多くの時間をかけて考え、自分が気付いた登場人物の変化を発表していることが述べられました。

 第2グループは、日本の古典教育に注目し、日本の古典教育の開始時期に関して対立した意見があることを紹介しました。また、日本の古典教育の問題点についても言及し、段階的な教育を行うことや、学生が主体的に学習するようなディスカッションや創作活動等をより積極的に授業に取り入れることが提案されました。さらに、古典教育は試験のためという目的に留まるべきでなく、伝統文化や知識を学ぶ機会でもあるべきだと主張されました。

 第1回目(12月3日)の様子

 第2回となる12月10日には、国立台湾大学の学生5名が台湾と日本に関する3つのテーマの発表を行いました。

 第1グループは、台湾文学中の日本語の混用に注目し、混用が見られる作品の背景として、日本統治時代の日本語教育を受けた筆者によるもの、1987年以降に日本統治時代を題材としたもの、「台湾語の発音の日本語」が書かれたものなどがあると紹介されました。張文薫副教授からは、日本語世代の作家にとって日本語は母語であるが、それ以降の世代の作家にとっては母語ではなく、より意識的に混用しているため、日本語混用と言っても意味合いが違う、と補足解説がありました。

 第2グループは、台湾での会話中での日本語の混用に注目しました。第1グループとの違いとして1990年代末の「哈日」現象で、台湾人の日本の漫画、アニメや映画に対する関心が急激に高まり、日常生活の中に日本の文化に関連した単語が使われるようになった点が挙げられました。さらに、日本語世代の台湾人と1990年代の「哈日族」が使っていた日本語の語彙について紹介があり、また、2000年代以降のACG文化や、2010年以降に日本旅行の流行やオンライン交流が身近になったことも後押しし、若者やネット世代は日本語の語句を使うことにより慣れていったという歴史的な展開にも言及がありました。最後に、日本語と台湾語の関係性についての説明がありました。

 第3グループは、台湾と日本、香港の中学校の国語教科書に注目した発表でした。まず、台湾と香港の国語の教科書の比較分析が行われました。比較のなかで、台湾側の古典作品が少なくなったこと、台湾と香港の「指定範文(国語教科書に必ず入れなければならない文学作品)」、台湾と香港の古典の特徴(台湾の古典散文が盛り込まれており、香港の教科書には唐詩や宋詩が含まれている)などが述べられました。次に、台湾と日本の国語教科書の比較分析が行われました。必修/選択科目の別や近年の台湾の国語教科書改革の紹介があり、改革の紹介では、1つ目に美観(見た目の美しさ)、2つ目に章立ての工夫が挙げられ、日本の状況と比較すると興味深いものでした。

 第2回目(12月10日)の様子

全2回の共同授業を通して、今まで以上に日台それぞれの文化や関係性を知ることができ、充実した取組みとなりました。

2024年12月25日

2024 11/12 「ドイツ語と台湾研究」講演会を開催しました

 

 2024年11月12日、国立政治大学の陳致宏助理教授及び姚紹基副教授を講師に迎え、「德語與臺灣研究(ドイツ語と台湾研究)」講演会を行いました。講演の通訳は、本学の中井健太氏が務めました。

 

 

 陳先生の講演「德國史家Ludwig Riess眼中的日本與臺灣(ドイツの歴史家Ludwig Riessの眼に映る日本と台湾)」では、ドイツの歴史家・Ludwig Riessに注目し、当時の手紙や写真等の史料を用いて、彼の眼から見た日本と台湾を紹介しました。
 Riessは1887年に来日し、東京大学にて世界史や史学の方法論の授業を担当した人物で、史学会の設立や同会の成果物刊行を勧め、日本における専門家による歴史学の成立に寄与しました。また、彼が著した『台湾島史』は史学の専門家によって台湾の歴史が記録された重要な書籍として知られています。講演ではこれに関する分析も行いました。

 陳致宏先生の講演

 続いて、後半を担当した姚先生は「德籍中國海關職員Georg Kleinwächter在南臺灣的故事(ドイツ籍中国税関職員Georg Kleinwächter が南台湾で経験したこと)」という題で講演しました。姚先生は、ベルリンの民族博物館の台湾原住民関連の収蔵物について説明し、約450件の台湾原住民の文物及び約70枚の写真があること、最も古いものは1871年に収蔵されていたこと、当時中国の税関職員を務めていたGeorg Kleinwächterが多く収集をしていたことなどを紹介しました。その上で、Kleinwächterの台湾南部調査の動向や関連史料についての分析を行いました。さらに、収蔵品について、展示場所が不足していることや博物館の方針等の理由で未だ日の目を見ておらず、将来的にこれらの歴史的文物が活用されることへの希望を語りました。また、文物の来歴や返還等の今後の課題についても言及しました。

 姚紹基先生の講演

 講演後、ドイツ人がどのような経緯で台湾に入ったのかということについての説明や討論があり、また世界史の中での台湾の状況について具体的に語られる一幕もありました。両先生の講演を通して、学生たちは毎週のゼミでの学びとは異なる側面から台湾を理解し、台湾研究の多元性について知ることができたと思います。

 講演者との写真(左から 深尾葉子教授、姚紹基副教授、陳致宏助理教授、林初梅教授、通訳中井健太氏)


 
2024年12月11日

2024 10/11 一橋大学吉田真悟ゼミと共催で冨田哲氏講演会を開催しました

 2024年10月11日、一橋大学国立東キャンパス国際研究館大教室にて、大阪大学台湾研究講座主催(一橋大学吉田真悟ゼミ共催)、冨田哲先生講演「「中文」「国語」「華語」「台湾華語」―台湾でMandarinをどう称するか」を開催しました。

 

 冨田先生は台湾の社会言語学および台湾史の専門家であり、今回は台湾における「中文」「国語」「華語」「台湾華語」という呼称がどのように使われ、その社会的意味がどのように変化してきたかをテーマとしてご講演いただきました。

 まず、冨田先生は、台湾で使用される「中文」「国語」「華語」の各名称が、いずれもMandarinを指しつつも異なる意味合いを持つことを指摘しました。その上で「台湾華語」の形成過程とその意味について説明しました。
 さらに、Mandarinは今後「われわれ(台湾人)の言語」として受け入れられつつ、それを「国語」、「中文」から「(台湾)華語」へ読み替える動きが顕在化するのではないかと語りました。そうして華語世界における台湾の独自性を強調する動きが増えると予想する一方で、強圧的な言語政策の下で形成された「台湾華語」に固有性や在地性を認めることの是非についても言及しました。

2024年11月27日

2024 10/29-30 国立台湾師範大学物理学系学生との交流を行いました

 2024年10月29日-30日、国立台湾師範大学理学院物理学系の劉祥麟教授が学生を連れて大阪大学を訪問しました。10月29日に本学箕面キャンパス、30日に本学豊中キャンパスにて本学中国語専攻の学生と交流会を行いました。
10月29日はまず3限の中国語専攻2回生の授業で交流を行いました。本学の学生は「私の一週間」及び「私の人生設計」という題で、師範大学の学生は「台湾社会から見た日本社会」、「台湾人から見た日本社会の長所・短所」という題で発表を行いました。台湾師範大学の学生からは日本の大学生の多くがアルバイトをしていること、そして将来的にマイホームの購入や子供を持つことを考えていることに驚きの声が上がりました。本学の女子学生の一人は、日本では未だに女性にとって結婚と子育てが最大の幸せだと言われることが多く、それに疑問をいただいていると述べました。その後グループに分かれて意見交換を行いました。 続く4限の上級生対象の授業では本学の学生より「大阪の観光名所」についての発表がありました。道頓堀など、有名な観光名所がスクリーンに映し出されると台湾師範大学の学生から歓声が上がりました。発表が終わった後、数人ずつのグループに分かれてキャンパスツアーを行いました。学生たちは和やかな雰囲気で交流を楽しみました。

 開会の挨拶

 師範大学学生の発表

 意見交換の様子

 4限の集合写真

 10月30日は本学豊中キャンパスにて、林初梅教授が担当する中国語専攻1年生の授業に参加し、交流を行いました。大学間協定の調印式で来校されていた国立台湾師範大学呉正己校長も参加されました。授業では、まず、劉教授と台湾師範大学の学生たちが自己紹介を行い、その後本学学生2名と台湾師範大学学生1名でグループを作り、豊中キャンパス構内を1時間程度散策しながら交流を行いました。中国語専攻の学生たちは、事前に散策の計画を立てたり、会話の内容を考えたりと、入念な準備の上、当日を迎えました。当日は天候に恵まれ、良い雰囲気の中で、お互いの大学生活や趣味についての会話を楽しみながら、豊中キャンパスの各施設を散策しました。

 

 師範大学学生による自己紹介



 豊中キャンパス散策

 30日の集合写真(前列中央左から3人目が台湾師範大学呉正己校長)

2024年10月30日
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