2023 7/24劉靈均氏講演会を開催しました

2023年7月24日、大阪公立大学人権問題研究センター特別研究員である劉靈均氏による講演「『同志』(トンジー)とLGBTの狭間で―台湾と日本で性的少数者として生きる―を開催しました。

 まず、劉氏は、同志文学の研究に取り組んできた自身の来歴や、近年の日台のLGBTに関する団体や映画、音楽、ニュースなどを紹介した後、LGBTという言葉についての説明をしました。LGBTは欧米では1980年代以後一般用語になったのに対し、日本では、先行研究から、メディアにおける本格的な出現は2012年で、さらに2015年にビジネス関係の週刊誌がLGBTビジネス特集として取り上げた事例を紹介しました。ここで劉氏は特に、人権についての問題の検討よりもまずビジネス市場として取りあげられたことへの疑問を述べました。さらに、LGBTに関する差別が他の様々な差別を行う人々によって起こされている事態についても言及しました。

 

 次に、台湾のLGBT・「同志」運動の歴史について説明しました。「同志」という呼び方については、元々共産主義者の使用していた語が、1980年代後半に香港の劇作家林奕華とエッセイスト邁克が「lesbian and gay」と「queer」について「同志」と訳出し、後に台湾でも定着したものであること、さらに、「同志」はLGBT当事者内部の連帯及び、「直同志」という非当事者間の連帯、他のイシュー(マイノリティ)との連帯の特徴を持つことについて言及しました。また、台湾のLGBTに関する法制度については、近年の進展の一方で、それらの背景に亡くなった性的少数者との関連があることや、バックラッシュの強さもあり、デマで自殺・自傷行為に追い込まれた人々が100人を上回ったとされることについても解説しました。

 

 次に、台湾とは対照的な日本のジェンダーに関わる状況を述べたうえで、劉氏の研究する「同志文学」に関して言えば、日本において必ずしも過去にみられなかったわけでなく、この要素を持つものは日本統治期台湾にも存在し、戦後の台湾の同志文学のなかには、日本に関わる様々な描写や日本の文学、エンターテインメントの影響がみられることを指摘しました。さらに、戦後のアジアの状況として、日本は憲法で言論の自由が守られ、LGBTにおいてはサブカルチャー・消費文化をリードしてきたものの、バブル崩壊後の傾向として、性に関する保守化がみられたことを述べ、これに対し、アジア諸国においてはこの日本の性の保守化時期にジェンダーを含む人権が進展してきたと述べました。

 最後に、近年の日台が関わる文学や劇について、また劉氏自身の取組みや、日本でも読める台湾の同志文学についての紹介もしてくださり、時間いっぱいお教えいただきました。台湾のLGBT・「同志」運動や文学だけでなく、日本との関わりも含め多角的にご教授いただき、充実した講演となりました。

2024年01月16日