2024年2月23日 第5回台湾引揚研究会
2024年2月23日、広島大学東京オフィスにて第5回台湾引揚研究会を行いました。今回は、陽明交通大学黄紹恒教授、台湾大学顔杏如副教授の2名による研究報告を実施しました。
最初に報告した黄紹恒教授は、日本統治時代に台北帝国大学教授であった楠井隆三に注目した報告を行いました。黄教授は、楠井の生涯を通じて、外地の帝国大学教員が戦後どのような経緯で教鞭を取り直すこととなったのか、また、戦争世代である楠井の内面的な心情はどのようであったのか、という点を問とし、自身の分析を述べました。 報告終了後の全体議論では、事実確認や楠井の内面に関する分析のほか、植民地台湾にいた他の日本人学者の引揚げや引揚げ資料についての情報共有も行われました。
黄教授の報告後、小憩ののち、顔杏如副教授の報告が行われました。顔副教授は問題意識として、戦後初期に祖国であり異国でもある日本で生活にいかに立て直したのか、立て直しの過程において戦前の植民地との関係はいかなるものであったのか、という点を挙げ、『全国引揚者新聞』の分析を行いました。 全体議論では、時代ごとの引揚者の語りの状況についての議論や、女性に関する記事が時期ごとにどの程度あるのか調査が必要だという提起がありました。
二報告及びその後の議論によって、引揚者の研究において研究者が意識的に取り組む必要がある点が確認され、今後の全体の成果発表に向けて良い報告となりました。
第5回台湾引揚研究会
日時:2024年2月23日 10:00~12:30
場所:広島大学東京オフィス(東京都千代田区内幸町一丁目3番1号幸ビルディング2F)
報告者及び報告タイトル:
1.黄紹恒(国立陽明交通大学客家文化学院教授)「ある知識人の日本引揚―台北帝大教授・楠井隆三の戦後」
2.顔杏如(国立台湾大学歴史学系副教授)「『全国引揚者新聞』に見る引揚者の戦後初期―台湾との関係を中心に」
2024年1月16日 淡江大学冨田哲副教授講演会
2024年1月16日、淡江大学日本語学科副教授の冨田哲先生を講師にお迎えし、講演会「一日本語母語話者からみた台湾言語社会」を行いました。本講演の数日前に台湾で行われた「第16任總統副總統及第11屆立法委員選舉」の現地状況や話題になった出来事について簡単に紹介した後、昨今の台湾で起きている言語にまつわる現象や問題に言及しました。
冨田先生は、はじめに、昨今の台湾でみられる言語現象や問題について、台湾の言語人口(あるいはエスニシティ)をどのように理解すればいいのかという点について、それぞれの言語人口に関する資料はあるものの、どのような定義で〇〇語や〇〇人と判断するのかは非常に曖昧であると述べました。
次に華語教学に対する認知の高まりについて述べました。約20年前は、台湾で留学生向けの中国語教育課程はほとんど用意されていませんでした。しかし、中国語を学ぶ外国人が増え、台湾人の間では台湾華語という名称を使う場面も出てきました。一方で、外国人の「つたない」華語に関して、台湾人は幾分慣れてきたが、寛容度が必ずしも向上した訳ではない状況で、冨田先生はどの言語においても母語話者は、外国人やその国にルーツがある人の話す「つたない」言語も受け入れていく責任があると感じていると述べました。 さらに、近年台湾の街中で見聞きする機会が増えている韓国語にも言及しました。MRTではこれまで主要駅で日本語のアナウンスが導入されていましたが、昨年から韓国語のアナウンスも開始されました。しかし外国語アナウンスの際の、台湾の地名の外国語表記(その言語での読み方に合わせるか、台湾華語の発音に合わせるか)について、専門家の中でも意見が分かれる難しい問題があることを指摘しました。最後に、台湾語の表記法の普及について取り上げました。台湾語の表記法自体は昔からあるものの、多くの台湾人は使用しておらず、また、漢字という大多数の人にとっての共有の書記言語があるところに、「あらたな」書記言語を持ち込むことは非常に困難であるとも述べました。冨田先生は一橋大学の吉田真悟氏の言葉を借り、「台湾語は台湾意識の象徴であり続けているが、それを推進することには限界や弊害がある。そのため台湾語の復興や文字化のための闘いは、他者の排除ではなく、色々なバックグラウンドや考え方があることを前提に、理解を広げていくことにある。」と締めくくりました。
質疑応答では、熊本にTSMCの工場ができることを受けて、熊本県の企業が台湾人ひいては台湾滞在経験のある日本人学生のインターンを積極的に募集している件や、台湾人が「つたない」華語に本当に寛容ではないのか、という点について議論しました。
日時:2024年1月16日 16:50-18:20
講演者:冨田哲先生場所:大阪大学箕面キャンパス
講演タイトル:「一日本語母語話者からみた台湾言語社会」
参加者:林初梅教授ゼミ受講生17名
2023年12月16日 台湾研究講座交流会@丹波ツアー
2023年12月16日、台湾研究講座主催、里山グリーンネットワーク様ご協力の元で、丹波ツアーを開催いたしました。
里山活動の現場視察と、台湾北部客家地域から山間地域の地域創生を考える講座を盛り込んで、ジビエ・台湾茶・台湾固有の植物性ゼリーを味わいながら日本と台湾の共通課題を探るテーマで、現地の人々と学生を交えて学びの場を作りました。 参加者はスタッフ協力者を含め約30名、丹波黒井駅前の春日住民センター調理室に集合後、里山グリーンネットワークの藤本さんの用意してくださった鹿肉ジビエのお料理と、大和という地元の料理屋さんのお弁当、そして石田さんがつくってきてくださったオーギョーチ(愛玉子)や黄紹恒先生の東方美人茶および擂茶(レイチャ)をいただきながら、丹波の鹿肉利用をめぐるお話、地元の産品を生かした活動拠点にまつわるお話を伺いました。
その後チャーターバスにて移動中、車内では藤本さんがこれまで取り組んでこられた鹿肉利用のための活動の歴史をお話いただきました。 到着後は丹波姫もみじの鹿解体作業所にて、日々猟師さんから運び込まれてくる鹿の解体の場を全員で見学。
実際に見る動物の解体シーンなどは、都会の消費生活では体験できない場面もあり、改めて普段の生活で様々な「肉」を食しているにも関わらず、このプロセスが我々の目にしないところで常に起きていることを実感しました。
参加者の皆さんは熱心にその工程を見学され、現地での問題もお聞きすることができました。例えば実際に利用されたり食に供されるのはごくごく一部で、その大半は廃棄物として処理されるという過酷な現実、特に皮なめしにつかえる鹿皮の利用をなんとか推進しようと藤本さんは各地努力をされて美しい帽子などの製品加工をされているが、実際にはなかなか再利用できずにこれも産廃として有料処分している現状など。
さらに地元の野菜農家などは鹿肉加工をよびかける里山活動に対して、自分たちの農作物を荒らすしかなんて全頭殺してしまえばいいのにと、商売目的でしか捉えられていない現実や、大半の地元の人たちの鹿の害に無関心を装う状況など、複雑な利害関係の状況が日々「獣害」問題の周辺を取り巻いていて、里山活動の難しさも改めて確認することとなりました。
また分水嶺のある水分け公園という施設では、お二人の講師から台湾の客家地域の問題について熱いレクチャーをいただき、仙草茶とオーギョーチを試食していただいたり、現地の地消地産の商品なども視察。丹波ツアーでは、多くの学びと気づき、今後を展望し旧交をあたため、新しい出会いに巡り合う機会となりました。
2024年12月5日、12日 台湾大学文学研究所の学生との共同授業
2023年12月5日、12日の林初梅教授の授業において、台湾大学文学研究所の張文薫副教授及び同研究所の学生とオンラインで共同授業を行いました。
12月5日の授業では、日本と台湾の国語教育を大テーマに、大阪大学の学生がグループ報告を行いました。各グループでは、古典教育、現代文教育、外国文学の採用、大学入試の状況をそれぞれ課題にし、日台の状況の比較を行い、調査結果を報告しました。台湾大学の学生からはそれぞれの報告に対して質問が出され、活発な議論が行われました。また、大阪大学の学生からは、さらに踏み込んだ問いかけも行われ、充実した共同授業を行うことができました。
12月12日の授業では、台湾大学の学生が、台湾の学習指導要領から古典文学作品が数多く削除されたことに関わる動向を導入に、台湾の教科書の変遷、台湾での国文教師の実情などについて報告を行いました。教科書の変遷は台湾の歴史を物語っており、また、教師の状況は日本と台湾で異なる点もあり、大阪大学の学生にとっては新たな発見の機会を得ることができました。
2回にわたり、日台それぞれの教育事情について交流することができ、大阪大学側も台湾大学側も良い刺激を得ることができたと考えています。
2023年11月13日 国立陽明交通大学黃紹恒教授講演会
2023年11月13日(月)13:30-15:00、国立陽明交通大学客家文化学院の黃紹恒(黃紹恆)教授を講師にお招きし、講演会 「台湾北部における客家地域の地方創生について」を開催しました。
講演で黄教授は、まず前提として、台湾における社会発展の過程で、少子高齢化や都市への人口集中といった現象が起こり、これらの問題に台湾が向き合わざるを得なくなったことを指摘しました。そのうえで、上記の問題を解決するため、政府が地方創生を推進し、若者が地元に帰ること、もしくは六大都市以外の場所に移住することを期待し、数年間の尽力を経て最初の成果を得ることができたと説明しました。
さらに、黄先生はご自身のフィールドワークの結果を紹介しました。その結果を踏まえ、言語と地方創生の関係について、若者が地元に戻ることができれば、地方の発展を促進できるだけでなく、地元の言語も保存され、それが使用され続けることで、アイデンティティの強化につながると、外国語学部の学生に向けてもう一歩踏み込んだ指摘をしました。
この他に、土地に蓄積した多くの歴史や文化的要素は一度失われれば元に戻すことができないことにも言及しました。近年、台湾企業が事業を拡大し、それに伴う環境問題が顕在化しており、科学技術の発展と文化の保存の間で何を選択するべきか、考える必要があるとも語りました。
講演の最後には、阪南大学国際観光学部の重谷陽一准教授も観光の立場からディスカッションに加わり、台湾と日本は類似点が多いため、互いに参考にし、学びあう必要があることも指摘されました。
講演終了後は、黄教授から新竹の名産品・東方美人茶と擂茶を用意してくださり、学生も台湾の飲食文化を体験することができました。
2023年11月13日 井本留美子氏(愛玉籽研究室室長)講演会
2023年11月13日(月)15:10-16:40に愛玉籽研究室室長の井本留美子氏を講師にお迎えし、講演会「愛玉子(オーギョーチ)について」を開催しました。
本講演では井本先生から台湾特有の植物・愛玉子について生態、歴史、飲食、医療、言語等の様々な観点からご紹介いただきました。
講演中には、実際に井本先生から愛玉子の原型を学生に見せまていただきました。そして、愛玉子が入った紙パックの中から愛玉子の成分を水中に濾し出す作業も体験しました。
さらに、井本先生は台湾の特有の自然の生態と、そこにおける愛玉と愛玉小蜂の関係性について解説しました。相利共生の生物の特徴について説明したほか、野生の愛玉が少なくなってきていること、近年愛玉子の品種改良に力を入れており生産量が増加していること、生物の科学技術業界と共同でフェイスマスクを開発していることなどをお話しいただきました。
また、歴史と言語の視点から、愛玉の名前の由来と発音を解説しました。愛玉は日本の植物学者・牧野富太郎氏が台湾で発見したもので、その関連エピソードが本年8月のNHK連続テレビ小説「らんまん」に出てきたため、日本人が愛玉に対して興味や関心を持つようになったことも取り上げられました。講演会の最後には、深尾教授と井本先生が会場の学生と参加者にはちみつレモン味の愛玉を振舞い、その爽やかな風味に皆、舌鼓を打ちました。
2023年10月18日,25日,11月1日黃紹恆教授による客家文化講義
2023年10月18日、25日、11月1日の5限(16:50~18:20)、林初梅教授の「多文化社会台湾の言語事情」の授業で、陽明交通大学客家文化学院黃紹恆教授から客家文化について、ご講義いただきました。
黃教授は2023年秋冬学期より、本学の招聘研究員として台湾からお越しいただき、台湾研究講座においても研究協力者としてご協力いただいております。
今回の授業内容は、全3回で1.客家の文化と歴史、2.客家語の種類、3.客家の音楽(近代以前から現代まで)と様々なテーマについてお教えいただき、学生にとって客家文化を理解する大変貴重な機会となりました。
2023年10月31日 孫大川教授講演会開催
2023年10月31日(火)、国立台湾文学館の台湾文学翻訳書籍展の開催に合わせて、台湾原住民文学者で東華大学栄誉教授でもある孫大川(パァラバン・ダナパン)氏をお招きし、講演会「ペンで歌うーー原住民文学形成の背景と意義」を開催しました。
司会は本学林初梅教授、通訳は岡野翔太講師が務めました。
孫教授はご自身の成長とご家族、特に母親から受けた影響についての話題を導入にそこから原住民の伝統的な口承及び舞踊の文化を紹介しました。
その後、時代が進み台湾が国内外からの様々な困難に直面する中で、特に本土化の議論が起こったとき、孫教授は今こそ台湾の原住民が参入し、変化を起こせるのではないかと考えていたことを、当時を回顧し述べました。
講演の後には、孫先生と長年親交があり、ご自身も台湾原住民文学研究家である下村作次郎教授(天理大学名誉教授)が、台湾原住民の基礎知識と現状を紹介しました。講演会の最後には数名の先生方が原住民の曲を歌うなど、盛会裡に終了しました。
2023年10月25日~11月25日 台湾文学日本語翻訳書籍展
2023年10月25日から11月25日 まで大阪大学台湾研究講座、国立台湾文学館、箕面市立船場図書館の共同で「台湾文学日本語翻訳書籍展」を開催しました。
今回は原住民文学、ジェンダー文学、女性作家の文学をテーマとした日本語翻訳書籍、約60冊を展示し、台湾文学の日本語翻訳の成果をご覧いただきました。また、船場図書館の蔵書に中国語原本があったものについては、原本も一緒に展示しました。書籍展後、文学館の展示本は船場図書館に寄贈され、引き続き台湾文学をお読みいただくことができます。
また、当書籍展では台湾文学館から提供された文学館の立体模型キットや、立体カードがご好評をいただきました。
メディアにおいてはTAIWAN TODAY、中央通訊社及びその日本語版・フォーカス台湾にも取り上げていただきました。
ご来場いただいた皆さま、当書籍展にご協力いただいた皆さま、誠にありがとうございました。
2023年10月19日 台湾師範大学附属高級中学の学生が来校しました
2023年10月19日(木)、台湾師範大学附属高級中学(日本の高等学校に相当)の学生(32名)が本学箕面キャンパスに来校し、本学の学生たちと交流プログラムを行いました。
記念ホールでの歓迎の後、中国語専攻の学生がキャンパス内を案内し、光と平和の広場にて本学学生代表が大阪大学の紹介と学生の一週間の生活についてのプレゼンテーションを行いました。
その後は教室に移動し、交流会を開催しました。交流会では8つのテーマの中から高校生が本学学生にインタビューし、最終的には、高校生たちがそれをまとめて発表しました。活発な交流が行われ、お互いに充実した学びを得ることができました。
2023年10月1日 第4回台湾引揚研究会
2023年10月1日 10時から11時10分まで、広島大学東京オフィスにて第4回台湾引揚研究会を行いました。今回は、共立女子大学菅野敦志教授による研究報告を実施しました。
菅野教授は、1954年にフィリピンのマニラで開催された第2回アジア競技大会に参加した各外地(台湾・朝鮮・満洲)生まれの日本人選手に注目し、彼らの外地での生活、引揚げ、及びその後の経験がどのようにスポーツに結び付けられたのか、その後、彼らの力がどのように生かされたのかを主に分析しました。
また、菅野教授は、先行研究も踏まえ、第2回のアジア競技大会について、1951年に日本がフィリピンの反発を受けながら参加したニューデリーの第1回アジア競技大会、東京オリンピックのショーウィンドウとしての1958年第3回大会の間の大会としてスポーツを媒介としたアジア復帰、和解のナラティブの意味を持つ大会と位置づけ、そこに外地出身者が参加していたことの意味を考えることで、これまでのスポーツ史の叙述の枠組みを見直していく必要性を説きました。
報告終了後は、戦後中華民国の国際スポーツ大会の構想について、アジア競技大会における日本語交流の状況についてなど、当時の台湾とスポーツの関連、帝国日本期からの連続性を意識した質問が出されました。