2023年度の活動(前期)

2023年9月17日-26日 台湾言語文化研修プログラム

 2023年9月17日から9月26日まで、大阪大学台湾研究講座は10日間の台湾言語文化研修プログラムを実施しました。 今回、同講座では研修の範囲を台湾各地に広げ、訪問した各地でフィールドワークを行いました。その際、台湾大学、陽明交通大学、台湾師範大学、台南第一高級中学、台湾師範大学附属高級中学、台北市明湖国民小学など多くの学校を訪問しました。学生は史跡や伝統ある校舎を直接巡る中で学校の様子を見るだけでなく、現地の学生とも活発に交流し、授業にも参加しました。

行程は以下の通りです。
9月18日:台湾師範大学で、台北高等学校時代の歴史的建造物を見学し、社会言語学の授業を聴講しました。

 

 

9月19日:陽明交通大学の教授・学生の引率・付添のもと、客家文化のフィールドワークを行いその文化についての理解を深め、同大学の学生とともに北埔の地域活性化の取組みも学びました。

 

 

9月20日:台南第一高級中学で授業を見学しました。また、同校の教員から台南一中の校史館をご案内いただき詳細にその歴史を解説いただきました。安平壺などの文化財展示も見学しました。


9月21日:台湾文学館を訪問しました。館員の解説のもと、戒厳令時期の禁書・禁歌の展示を見学しました。印象深い展示物を観覧し、戒厳令時期の台湾について、より理解を深めることができました。

 

 

9月22日:明湖小学校を訪問しました。授業見学に加え、日本文化に関する授業を行い、台湾の児童たちと日本文化を共有しました。その後、台湾大学文学部を訪問しました。台湾大学では、中国文学専攻の教授・学生の歓迎会で活発な文化交流を行うことができました。最後は、台湾師範大学付属高級中学を訪問し、同校の懇切な対応のもと、儀隊の銃操作練習(実際の銃ではありません)を体験し、その技術の難しさを知りました。


 また、大学教授、地元の名士や専門家のガイドのもと、新竹では北埔天水堂を観覧し、台南では台南五条港街区、安平古堡、八田與一記念園区など歴史的、文化的意義をもつ場所を訪問しました。


 23日から25日は学生たちの自主フィールドワーク及び発表会を行いました。同プログラムは26日に無事終了することができました

 今回の研修は、学生たちにとって、これまで授業で学んだ内容について実際に自分の目で見て調査を行い、考察を深めることができた点が最大の収穫であり、意義深い研修になったと考えています。


2023年9月1-4日 陽明交通大学の研修プログラムに中国語専攻の学生が参加

 2023年9月1日-4日、国立陽明交通大学主催の夏キャンプに本学中国語専攻の学生2名が参加しました。

 

 同キャンプでは、新竹市内各地の寺廟を周り、資料をもとに聞き取り調査などを行うフィールドワークに加え、歴史学専攻の学生との討論、主催の教授陣の助言を経て、新たな歴史的な仮説を導き出すというプログラムの研修が行われました。
 参加者は台湾の歴史研究を志す学生が中心で、日本人の参加は今回が初めてでした。 

 参加学生の小倉隆志さんからは「台湾の歴史的な場所を多く訪れて自分の目で見たり、真剣に議論するグループのメンバーを見て研究とは何かということを深く考察したりと、大学のなかで中国語を学んでいるだけでは経験できないことができた。卒業研究にも繋がるであろう教授や学生との出会いが一番大きかった」(抜粋)という感想が寄せられました。
 台湾の大学教授や次世代を担う学生たちとの議論・交流や、現地のフィールドワークを体験できたことで、学生にとっては自身の研究や今後に役立つ貴重な学びの機会となりました。

 



2023年7月24日 劉靈均氏講演会


 2023年7月24日、大阪公立大学人権問題研究センター特別研究員である劉靈均氏による講演「『同志』(トンジー)とLGBTの狭間で―台湾と日本で性的少数者として生きる― 」を開催しました。
まず、劉氏は、同志文学の研究に取り組んできた自身の来歴や、近年の日台のLGBTに関する団体や映画、音楽、ニュースなどを紹介した後、LGBTという言葉についての説明をしました。LGBTは欧米では1980年代以後一般用語になったのに対し、日本では、先行研究から、メディアにおける本格的な出現は2012年で、さらに2015年にビジネス関係の週刊誌がLGBTビジネス特集として取り上げた事例を紹介しました。ここで劉氏は特に、人権についての問題の検討よりもまずビジネス市場として取りあげられたことへの疑問を述べました。さらに、LGBTに関する差別が他の様々な差別を行う人々によって起こされている事態についても言及しました。

 

 

 次に、台湾のLGBT・「同志」運動の歴史について説明しました。「同志」という呼び方については、元々共産主義者の使用していた語が、1980年代後半に香港の劇作家林奕華とエッセイスト邁克が「lesbian and gay」と「queer」について「同志」と訳出し、後に台湾でも定着したものであること、さらに、「同志」はLGBT当事者内部の連帯及び、「直同志」という非当事者間の連帯、他のイシュー(マイノリティ)との連帯の特徴を持つことについて言及しました。また、台湾のLGBTに関する法制度については、近年の進展の一方で、それらの背景に亡くなった性的少数者との関連があることや、バックラッシュの強さもあり、デマで自殺・自傷行為に追い込まれた人々が100人を上回ったとされることについても解説しました。


 次に、台湾とは対照的な日本のジェンダーに関わる状況を述べたうえで、劉氏の研究する「同志文学」に関して言えば、日本において必ずしも過去にみられなかったわけでなく、この要素を持つものは日本統治期台湾にも存在し、戦後の台湾の同志文学のなかには、日本に関わる様々な描写や日本の文学、エンターテインメントの影響がみられることを指摘しました。さらに、戦後のアジアの状況として、日本は憲法で言論の自由が守られ、LGBTにおいてはサブカルチャー・消費文化をリードしてきたものの、バブル崩壊後の傾向として、性に関する保守化がみられたことを述べ、これに対し、アジア諸国においてはこの日本の性の保守化時期にジェンダーを含む人権が進展してきたと述べました。
 

 最後に、近年の日台が関わる文学や劇について、また劉氏自身の取組みや、日本でも読める台湾の同志文学についての紹介もしてくださり、時間いっぱいお教えいただきました。台湾のLGBT・「同志」運動や文学だけでなく、日本との関わりも含め多角的にご教授いただき、充実した講演となりました。


2023年7月21日 林伯杰氏講演会

 2023年7月21日、林伯杰先生をお招きし、「台灣電影 百年金曲」という題で華語・台湾関係の映画と音楽についての講演会を開催しました。

 

 林伯杰先生の大阪大学台湾研究講座の講演は今回で3回目であり、昨年度はオンラインでご講演いただきました。大学に来校されての講演は2019年以来で、現在の箕面キャンパスには今回初めて来校されました。
 今回、林先生は戦前の「馬路天使」「サヨンの鐘」から現代の「海角七号」「言えない秘密」まで中国・香港・台湾に関する映画を紹介し、各映画とその音楽について分析を行い、同地域の映画音楽の歴史的展開について概観しました。
 さまざまなレベルの学生が学ぶことができるように配慮した構成で、林先生は最後に、映画、音楽からも言語を学ぶことができることを伝え、学生たちの言語学習を激励しました。学生たちも熱心に参加し、充実した講演となりました。

 

 

講演会概要
講演タイトル:台灣電影 百年金曲
講師:林伯杰氏講演会日程:2023年7月21日(金) 13:30-15:00
場所:大阪大学箕面キャンパス501講義室

 


2023年7月18日 台湾大学台湾文学研究所所長 張文薫副教授講演会

2023年7月18日、国立台湾大学台湾文学研究所副教授兼所長の張文薫先生を講師に迎え、講演会「「人間」本位の歴史ー作家・陳柔縉の日本時代」を開催しました。

 作家として活躍した陳柔縉は、日本統治時代やその前後の台湾における重要な転機をもたらした人物を、日常のエピソードや写真をもとに活き活きと描き出してきたことで知られています。張先生は陳柔縉が著作で取り上げた人物を紹介しながら、彼女の日本時代の視点について分析をしました。また、彼女の手法を踏まえ、自身の祖父についても紹介しました。 講演中には、Q&Aカードを使った交流活動もあり、学生からは「日本統治時代について理解が深まった」という感想が寄せられました。

 

 

 

講演会概要
講演タイトル:「人間」本位の歴史ー作家・陳柔縉の日本時代
講師:張文薫氏(国立台湾大学台湾文学研究所副教授兼所長)
講演会日程:2023年7月18日(火) 15:10-16:40
場所:大阪大学箕面キャンパス501講義室

2023年7月18日 ジョンズ・ホプキンズ大学 橋本悟助教授講演会

 2023年7月18日、ジョンズ・ホプキンズ大学比較思想及び文学学科の橋本悟助教授を講師に迎え、講演会「東アジアにおける近代文学の起源」を開催しました。

 

 橋本助教授は東アジア近代文学の中心人物を取り上げながら、近代化へのアプローチが様々にみられたことを述べ、また、同テーマを通してポスト・グローバル化時代におけるアジアー西洋、特殊ー普遍の概念とこれまでの関係性について、結びつけられていたものを問い直していく必要性があることを指摘しました。 

 本講義は学部生や大学院生、一般申込み者も参加し、満員のホールの中、文学を専門とする院生から質問もあり、充実した会となりました。

 

 

 

講演会概要
講演タイトル:東アジアにおける近代文学の起源
講師:橋本悟氏(ジョンズ・ホプキンズ大学比較思想及び文学学科助教授)
講演会日程:2023年7月18日(火) 16:50-18:20
場所:大阪大学箕面キャンパス 記念ホール




2023年7月17日 台湾引揚研究会

 2023年7月17日、大阪大学台湾研究講座で台湾引揚研究会を行いました。湾生で引揚げ経験者の若槻雅男氏をお招きし、ご自身の台湾経験について語っていただきました。

 

 1934年台北市に生まれた若槻氏は、同地での学校生活、空襲やその後の疎開経験、父との西螺での生活、戦後引揚げたあとの経歴についてなど、ご自身のこれまでの経験について言及しました。
 今回のインタビューには立正大学所澤潤教授、台湾大学顔杏如副教授、高崎経済大学石井清輝准教授、共立女子大学菅野敦志教授が参加し、愛知大学黄英哲教授、琉球大学野入直美准教授もオンラインで参加しました。
 本研究会では今回のインタビューに続き、関連研究発表を続けて開催し、その後、若槻氏の台湾経験を文字化し、書籍にまとめたいと考えています。

 

 

 

 


2023年6月30日 香港大学林姵吟教授講演会

 2023年6月30日(金)午後、大阪大学の東京オフィスにて、香港大学の林姵吟教授を講師にお招きし、「以流變(動)物與群島認同:台灣海洋文學的兩種面貌」と題して講演会を実施しました(前日、6/29は愛知大学で実施)。

 

 

 林教授は本講演会の導入として、戒厳令が解かれた1990年代初期、海洋を中心とした視点が続々と取り上げられ、注目度は高まったものの、生態系の保全や、先住民の文化認識論が蔑ろにされるなど、解決を要する問題があったことに言及しました。
 その上で林氏は、廖鴻基、夏曼・藍波安の2名の作家の作品を例に挙げ、検討を行った。廖鴻基については、彼が鯨類(クジラ・イルカ)に関する作品で鯨類に自己を投影しているが、それは自己発見の契機のみならず、文学における人類中心主義の描写を再構成していると分析しました。2人目の夏曼・藍波安については、彼の海洋作品からタオ族の要素を見出すことができ、長きにわたる漢民族の文化的覇権を批判し、それが他の島嶼文化との、国を超えた繋がりを促していると分析しました。最後に、海洋のイメージや構想が台湾社会にもたらす影響についても取り上げました。
 今回の講演会は、ディスカッションも活発に行われ、オンラインでも同時配信しました。会場参加者・オンライン参加者の協力もあり、多くの交流ができました。

 

 

 

 

講演会概要
講演タイトル:以流變(動)物與群島認同:台灣海洋文學的兩種面貌
講師:林姵吟氏(香港大学中文学院言文学系副教授兼学系主任)
講演会日程:2023年6月30日(金) 14:00-17:00場所:大阪大学東京オフィス


2023年5月29日-31日 大東文化大学 野嶋剛教授講演会

 2023年5月29日(月)、5月30日(火)・5月31日(水)の3日にわたり、大東文化大学社会学部野嶋剛教授を講師にお招きし、講演会「香港、台湾、そして中国から見る東アジアの21世紀」、「KANOとWBCから考える日台『野球/棒球』交流の系譜」を実施しました。
 1日目「香港、台湾、そして中国から見る東アジアの21世紀」では、野嶋教授ご自身が日本での上映権を持ち、日本語字幕も制作した台湾映画「太陽の子」の鑑賞のあとに開催されました。同日の内容についてはIWJチャンネルにて動画がアップされています。
 当時は異なる2つの政治体制のこの三地(中国大陸、台湾、香港)がいつかつながる日が来るのだろうかと漠然と考えていた教授の学生時代から、現在の三岸の緊迫した状況についてまでの歴史やこれからの捉え方などを、「中国とどう向き合うか」というテーマでお話ししていただきました。
 ジャーナリストとして、香港や中国に気軽に行きにくくなった現状も踏まえ、どんな理想を求めて「アジア」を学べばいいのかを、歴史から紐解いて、日本が持つステレオタイプの考え方からの脱却など、これからの学生に向けてメッセージを投げかけていただきました。
 質疑応答では金門島についてのお話も伺うことができました。

 

 2日目・3日目は「KANOとWBCから考える日台『野球/棒球』交流の系譜」の講演を行いました。2日目の講演では、中国語専攻の3,4回生を中心に、ゲストも含め20人ほどが参加しました。3日目の講演は中国語専攻の1年生を中心に、他学部・他専攻語の学生を含む20人ほどが参加しました。


 野嶋教授は映画KANOとWBCを通して日本統治時代の台湾の高校代表チーム・嘉義農林学校の背景やその系譜が今も引き継がれていることを紹介し、戦前の経験を通じて台湾野球と日本野球が相互に影響を与えていることに言及しました。また、野嶋教授は外交関係がない日本と台湾の間で、これほどまでに親近感を感じる理由として、共通文化としての野球が一役買っているのではないか、とも語り、講演会後の参加者とのディスカッションも両日とも活発に行われました。